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センター長挨拶

なぜ日本は成長しなくなったのか?

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福井大学地域創生推進本部 附属創生人材センター長
教授 竹本 拓治

 先の大戦後、高度経済成長期から安定経済成長期を経て、日本経済は90年代から現在まで低成長になっています。 様々な要因が複合的に重なった結果ではあるものの、一要因として、戦後復興から経済成長期にかけての、当時の先進国を目標とした効率性主導型の経済成長に限界がきたことが挙げられます。 お手本がなくなった90年代以降のイノベーション主導型経済成長においても、効率性主導型の経済成長にマッチしていた教育を、イノベーション主導型経済成長に適した教育に変えることができなかった結果といえます。

 人によっては「90年代以降の教育は大きく変わった」と主張する人もいるでしょう。 確かに従来の知識に重点をおいた教育を変えようという動きとともに、「アントレプレナーシップ(起業家精神)」や「グローバル」という言葉を教育現場で耳にすることが増えました。
 では逆にこれだけいろいろな場所で取り組まれるようになったにも関わらず、顕著な成果を挙げていないのはなぜでしょうか?

 それらの学びが大切であることに誰も異論はないと思います。しかし正しいことをしているのに結果が伴わないということは、 結果に至るプロセスなど、どこかに問題があるということです。「アントレプレナーシップ(起業家精神)」や「グローバル」を、 「事業創出、会社設立」や「英語をはじめとした語学力」と狭くとらえているからでしょうか?それとも現場で応用できるような教育ができていないこと? 会社経営やグローバルビジネスを経験した実務家が教えていないからでしょうか?

断片をつなげ機能させる仕組みが足りない

 例えばある「原理・原則」を学んだとします。マスターすればペーパーテストで合格点をもらうでしょう。 それで満足をして、社会である程度通用したのが、かつての日本ではないでしょうか?

 企業は「新卒」というブランドに興味をもち、4月の就業(全国統一一斉集団就職)に向けた採用活動を行う。 そして自社が理想とする人材を育てるために研修を行い、社員の人生の面倒をみる。その方針は「右向け右」を実行すれば、「与えられた」目標に突き進む「お手本のある」経済成長の時代にはおよそ機能していました。 正確にはペーパーテストで合格点をとれる人材が、その効率的な経済を下支えしてきました。ごく一部の創造性のあるリーダーに率いられて。

 繰り返しになりますが、それは効率性主導の経済成長下での話です。お手本がなくなれば自分たちで価値を創造し生み出さなければいけません。 それがイノベーション主導の経済における本来の成長の姿であり、机上の原理・原則だけでは通用しない社会です。そのような社会には、まわりの状況を常に「冷静」かつ「正確」に把握し、 時にはこれまで学んだ「原理・原則」を応用した「柔軟な」対応を行うこと、そこには「挑戦するリスクテイク」も必要とされます。
 物流が世界規模で動く現在において「まわりの状況」とは「グローバル」もその1つです。決して「語学力」だけを指すのではありません。またグローバルのみならず、専門性にとらわれない「総合・統合」といった考えも必要です。社会は日々複雑化しているからです。

 物事を正確にとらえるには「数値」が大きな助けになります。理学や工学などの領域は従来通り必要でしょうが、 その数値化されたデータを複雑化した社会に応用するには、社会科学やリベラルアーツの学びがより一層必要でしょう。 カオスな人間行動が複雑に絡み合う「現代社会」を扱う人文・社会科学の学問領域においては、「数値」は感情のバイアスや誤解を正し、適切な判断力を与える武器になります。 これらを総称するとすれば「分析応用力」になるでしょうか。

価値創造型の学びを目指して

 ここにもうワンクッション必要です。社会人を経験した方は、大学での学びと現場のビジネス社会に少なからず乖離を感じたことはありませんか?もちろん大学での学びとは、時代が移り変わっても「錆びない力」を身に着けることです。 しかしその力を身に着ける過程では、社会に出る最後の学びの場(または社会と行き来する学びの場)として、社会に応用できる内容であることも大切です。

 こちらも少し前からPBL(Project Based Learning)という言葉が教育現場で頻繁に使われるようになりました。 これは能動的な学習を行い、自ら問題を発見し解決していく能力の習得を目指しています。
 創生人材センターでは、このPBLの昇華を目指しています。「価値創造型PBL」と名付けています。福井県や福井大学をはじめとする各大学が現在取り組んでいるのは、課題を発見し解決する従来のPBLを、より大学の学びと結びつけ、教員の研究に参画する共同研究型PBLを加えたものです。これは専門性を社会に活かすうえで、効果の高い取り組みです。 創生人材センターが目指すのは、この取り組みから、さらにより高い価値を生み出すPBLの形です。

 そのために、専門性から理論を学び仮説を設定する、それを現地調査などの経験に落とし込んでいく、その「理論(原理・原則)」と「経験(現場)」の往復において、「分析力」を駆使し、「アウトプット」と「アウトカム」を志向すること、 その過程で「アントレプレナーシップ」を養い、「価値を創出・増大させることができる人材を育成」することが、現在の「価値創造型PBL」の骨子です。 認知領域だけでなく非認知領域を学ぶためのPBL、単純から複雑へと段階を踏むことで、価値創造型PBLが目指す形が出来上がっていきます。
 まさに価値を実現するものこそ、行動を起こす力となる「アントレプレナーシップ」です。どれだけ素晴らしい発明が生まれようが、立派な理論が構築されようが、それを社会で実現する人材がいなければ価値は生まれません。 危ないと想定されるものは全てやめるというのでは、何も変わりません。「前に進む勇気(リターンとリスクを適切かつ冷静に判断し、行動する気持ち)」が今の日本の社会には必要です。

グローバルに考える地域創生~人口減少対策だけが課題解決ではない

 創生人材センターの「創生」とは、「地域創生」を念頭につけたものです。そして巷で述べられる「地方創生」とは、地方における人口減少や東京への一極集中を避けるために行われる国を挙げての政策とされています。 各地で行われる政策アイデアコンテストや会議でコメンテーターや審査員、ワークショップファシリテート、委員などを行ってきた経験では、多くの場合「東京一極集中人口の見直し」や「都市部と地方部の経済格差是正」「地域にどのように企業を誘致するか」などが議論されてきました。

 本当にそれだけでいいのでしょうか?確かにその一つ一つが大切なテーマです。しかし少しだけ視点を変えてみましょう。日本国内で人やお金の移動(取り合い)を議論するだけが、果たして地方創生の解決策でしょうか?
 確かに地方創生が必要とされる原因は「日本の人口減少」にあります。一方で世界はどうでしょう?人口は年々増加し、100億人突破も見えてきました。 実は私たちが抱える課題は世界スケールで見ると、ほんの局所的なものかもしれません。「世界に地方創生の課題解決の糸口を見つける!」という視点で可能性を見出すこともできるかもしれません。

 改めて、地方の根本的な課題は人が減り続けることでしょうか?もしかすると、「人口が減り続けること」ではなく、真の課題は「経済規模が縮小し、賑わいが失われこと」かもしれません。仮にもしそうであれば、 「地域の優れた地産品を、ますます需要が増大する世界に出していくこと」や「人口が増え続ける世界から、地域に宿泊旅行者を呼び込む」ことはどうでしょう?地方は今より賑わい、さらに活性化するかもしれません!人口が減っても、その地域の一人当たりの生産力は向上するでしょう。日本は労働生産性が高いとはいえない国ですが、このように視点を変えることで、地方だけでなく、本来の日本の課題自体も解決できる可能性があるのです。

 このように私が将来の創生人材に期待することは、断片的な学びではありません。ここに述べたすべてを理解し、まさに「理論(原理・原則)」と「経験(現場)」を往復しながら価値を創出していくことです。 これまでとは少し異なる視点で、新たな可能性を模索してみませんか?

(2023年3月2日)

本学学生の方へ、価値創造型PBLを一緒に創り上げましょう!

 福井県の魅力あふれる各地域を体験し、新たな自分を発見しませんか?ただの観光ではない、本物の地域貢献と自己成長のチャンスです。

 価値創造型PBLによる地域調査活動で、福井県の豊かな文化と自然に触れながら、あなたの可能性を広げる旅に出ましょう!今こそ、冒険と学びの旅への第一歩を踏み出し、新しい自分を見つける絶好の機会です。

 附属創生人材センターでは、地域をフィールドにした学びの3本柱の事前・事後学習、現地調査を随時実施しています!

(2024年2月3日追記)

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